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おまけ

おまけのひとり言(春)

3月末から4月はじめ、禅隆寺さんの桜が満開になる。優勝力士が祝杯をあげるあの巨大な杯を伏せたように広がる桜。樹齢約100年と聞いた。枝ぶりがとてもいい。年2回は専門の庭師が入って剪定を続けているそうだ。

小社の窓から桜を眺めていると・・・。
山門の前に車が止まる。中から出てくるはたいていご婦人だ。

「ねえねえ、いいものがあるからこっちこっち…」

車の中の人に、早く早くと声をかけている。
次に出てくるのは、たいてい車を運転していた
ご主人らしき熟年の男性だ。
ちょっぴり不機嫌・・・?
後部座席からは、女性と子どもたち。その女性が赤ちゃんを抱いている場合もある。

「さあ、降りて降りて」
「なに・・・?どこへ行くの?」

家族が、ぞろぞろっと禅隆寺さんの山門をくぐる。

しばらくすると、みんなニコニコ顔で出てくる。

「ねえ、よかったでしょ」
「よくこんなところ、知っていたね」
「すごいね」
「あーよかった」
自分だけが知っていた秘密の場所を家族に案内し、ちょっぴり自慢げな顔をしているご婦人の満足げな顔が、小社の2階の窓からでも手に取るように分かる。

門前を歩いている人が、山門の前でピタッと止まる。
奥に見える満開の桜を見ているのだろう。引き込まれるようにすっと中に入っていく。

しばらくすると出てくる。
なぜか回れ右をし、山門の奥の桜に向かって深々と頭を下げ、 そして歩いていく。2階の窓から後ろ姿を追っていると、とても満足げに歩いていくように見えるから不思議だ。

人を思わず幸せな気分にしてしまう桜。1週間から2週間、この日本で生活する人をとても幸せな気分にしてくれる桜。風に吹かれて散る桜も、春雨に濡れ散った桜もとても色っぽい。何ともいえない。

ところで、日本一、世界一、宇宙一の花見が深夜ここ禅隆寺さんで催されているのはご存知だろうか?

禅隆寺さんの庭には、臨済宗のお寺にもかかわらず、十数体の観音様・お地蔵様がいる。
よく見ると山門に正対する観音様は徳利らしきものを持っている。
庭につながれているワンちゃん。夏を待ち焦がれている蝉の子どもたち。星と月。山門が閉まり、外堀通りの車もほとんどない。

静寂。

浄土からやってきた大切なお客様もいるかも知れない。
枯山水の庭にいつもじっとしている龍が踊り出す。あいの手を入れるのは狛犬だ。置物の象もいる。うさぎもいる。そうそう、あの用心深い鶯もいるかもしれない。祠の中には大黒さんもいる。
この世が一瞬寝静まった深夜、どんな会話が交わされるのだろうか・・・。飲めや唄えの大宴会。どんな隠し芸が飛び出すのだろう。
だれもいない庭に人の代表として参加してみたい!?裏木戸からそっと庭に忍び込んだらお叱りを受けちゃうかな・・・。

【2106】

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