この広告に注目!VOL.10ネーミングって、何のため?
他との違いをひと言で表す、それがネーミング。
「雑草という草はない。全ての植物には名前があるんじゃき」。これは、現在放送されているNHKの朝ドラ「まんてん」で、神木隆之介さんが演じる牧野富太郎の言葉。人も草花も同じように固有の名前を持ち、それぞれの生命は同じように尊い、というような意図でしょうか。
名前を持つのは何も生き物に限ったことではなく、商品やサービスだって同じこと。アイスキャディではなく「白くま」、パソコンではなく「Mac」とすると、唯一の味やデザイン、それを食べたり使ったりしている人の笑顔やセンスなどが見えてくる気がします。
名前を付けること、これを広告の世界ではネーミングと言います。例えば、地域で最も背が高いマンション、何種類ものチーズケーキが並ぶ新しいお店、抜群の吸引力を誇る機能を持った掃除機など、これから世の中に出る物や場所、さらには技術を広く伝え、その素晴らしさを理解してもらうために、ネーミングはとても重要な役割を果たします。
ネーミングの役割を端的に言えば、「他との違いをひと言で表す」こと。地域最高層のマンションだからTop Residence五番町、チーズケーキの種類の多さが売りだからMany Very Cheese、どの掃除機よりも力強く吸い取るからPower-est Cleaner。他と差別化しながら、購入したくなる理由を自分の名前で伝えているのです。
その名前から、機能や特徴が見えてくるか。センスは感じるか。
いちばんの自己紹介ツールであるネーミングの中でも、記憶に残るものは何が違うのでしょうか。2020年から開催されているアワード「日本ネーミング大賞」の受賞作から、その答えを探ってみましょう。
2022年に大賞を取ったのが「ほぼカニ」。いわゆる本物のカニの味や食感を再現したカニカマです。ツボは、正直で正々堂々として、しかもくすっと笑えること。スーパーに行けば同じカテゴリーに何種類もある商品ですが、それらとはセンスで差を付けています。調子に乗った(?)メーカーは、ほぼホタテ、ほぼうなぎ、ほぼイクラなども販売。甲殻アレルギーの人たちのために、カニ由来の原料を使用していない「のんカニ」というのもあるようです。
優秀賞に輝いているネーミングの一つが、洗浄機能付トイレの「アラウーノ」。日本ネーミング大賞のサイトには、フランス語で「〜の様式」という意味を持つala、イタリア語で「1」を表すunoを組み合わせた名前で、世界一清潔な日本のトイレを世界に拡げたいという思いがあると記されています。
が、この名前の最大の特徴はシャレ。はまれば強く印象に残るため、ネーミングをする際にコピーライターは必ず何案かを紛れ込ませます。シャレでつくられたネーミングでよく知られているのが、小林製薬の商品です。シミを消す「ケシミン」、尿漏れを改善する「モレナクト」、内臓脂肪を落とす「ナイシトール」などが代表例。製薬会社のアラカワにも、脳が新しくなったようにスカッと頭痛が治る「ノーシン」という商品があります。
最後に、違和感がある言葉を組み合わせて、印象に残る名前に仕立てた例をご紹介します。その代表が保湿ティッシュの「鼻セレブ」。鼻に使う高級なティッシュ、というコンセプトを実に上手く表しています。カップヌードルも、これまでにはなかったカップで食べる麺、という言葉の組み合わせが商品名になっています。
記憶に残るネーミングには、その商品の機能や特徴を記憶にすり込ませる力と、小洒落たセンスがある。クリエイティブの難しさと面白さは、広告表現以外にもありました。