トリテク~スマホで広告動画を撮るための基礎知識&ちょっとしたテクニック VOL.12 AI が話題だけど、広告動画にはどれぐらい使えるの?

2023.07.03

最近 AI が話題ですね。
人間が書いたような自然な文章で受け答えする ChatGPT、様々なタッチのイラストや写真のような画像も作成する Midjourney。
GoogleやAdobeなどの企業も同様のサービスを開始しています。
そして動画の分野でもAIによる動画作成が始まっています。
これだけAIが話題になっていると、気になってしまいますよね。
撮影した動画をAIで簡単に広告動画にできれば、手間もお金もコストを下げる事ができそうな気がします。 今回は少し「撮りテク」とは話が逸れてしまいますが、話題のものや新しいもののお話も大切です。
AIツールは広告動画作成に使えるのかどうか、今現在の段階でのお話をしたいと思います。

まずはこちらの動画をご覧ください。

これはアメリカのロックバンド、Linkin Parkの新曲のMVです。
このMVは、AIが作成しているという事で話題になっています。
使われているのはKaiber(https://kaiber.ai/)というサービスです。
すごいですよね。しかもKaiberの使用料は最安のプランでは月5ドルです。(2023年5月での価格)
たった700円足らずでこんなのが作れるなら、もう全部AIに任せればいいのでは?と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。

確かにすごいですが、AIで動画作成の全てができるわけではありません。
当たり前ですが、Linkin Park のこのMVは人の手が多く入っているでしょう。元になる動画のチョイスは当然人がやっているでしょうし、構成・カット割りも人の手によるものだと思われま す。
Kaiberの作る動画は、元素材の動画を1コマ1コマ変換してそれを繋げているような動画です。 例えばジブリアニメのような絵にするのかそれともサイバーな雰囲気のCG絵にするのかなど「どんなタッチに変換するのか」を「プロンプト」でAIに指示します。 その変換は、全体的にはどのコマも指示通り似た感じで変換されるのですが、コマごとによく見て行くと安定し ていません。
例えば最初の0:03あたりからの五重の塔(よく見たら四重の塔ですねw)は、遠くに行くにつれて絵が変わっていっています。

1:01あたりからの女の子の顔もコマごとに変わっていますね。肌の色まで変わっていますし左の絵は顔のバランスが崩れています。

ほんの一瞬のシーンですが、0:33あたりで女性が大きな紙の前で座って書道をしているように見えるシーンでは、最初後頭部左にあった花のようなものが、アングルが変わると女性の顔に変化するというちょっとホラーな 現象が起きています。

コマごとにユラユラと絵柄が変化していくこの感じが逆に面白く、どこかサイケデリックな雰囲気を出していてMVの魅力になっているのですが、広告動画でこれは困ります。 紹介したい商品の色や形やデザイン、ロゴなどが変わったら大変です。 3つめの画像で花が顔に変わったように、全く別のものになってしまうともうどうしようもありません。 飲み物のボトルを紹介しているのに途中で塔の絵に変換されてしまった、なんて事が起きるかもしれないのです。

恐らくLinkin ParkのMVはたくさんの元動画素材を用意し、それを Kaiber で変換し、それほどおかしくなっていないシーンをチョイスし、それらを細かいカット割りで繋げています。 絵が変わってしまうような破綻したシーンをできるだけ減らしているわけですね。結構な手間です。先ほど紹介した3つめの画像のシーンも一瞬ですからあまり気になりません。

AIの進化はとても速いですから、絵が違うものになってしまうようなトラブルは減っていくと思います。しかしChatGPTやMidjourneyもそうですが、こちらが期待しているものをAIに作ってもらうのはとても難しく、いくらかは偶然性に頼る事になります。いろんな指示を試して、想像していたものに近いものや想像と違うけど面白いものが出力されるまで、何度も試すという作業が必要になります。 「正確性」が何よりも大事な広告動画とは、まだまだ相性が悪いと言わざるを得ません。

そして、広告でもう1つ大事なのは「情報」です。
動画生成AIはあくまでも、画像や動画を別の雰囲気・別のタッチに変換するだけのものです。
画像生成AIはゼロから絵や写真を作れますが、文字を含んだレイアウトを作ってくれるわけではありません。商品の説明や紹介の文字情報などは結局人が作るしかないのです。

かと言ってAIが全く使えないわけではありません。
商品そのものとはあまり関係がないシーンにAIで作った動画を差し込んだり、AIで作った背景動画に商品画像を重ねたりしてもいいと思います。
全てはアイデア次第という事ですね。
ただ、「AI に全てお任せ」という時代はまだ来ていないようです。

あと最後になりますが、AIによる画像や動画では著作権について議論がされています。
MidjourneyやKaiberなどの画像生成AI・動画生成AIは、膨大な量のイラストや画像のデータを学習して画像を生成しています。 その学習するデータとして画像を使われるのは著作権の侵害にあたるのでは、という議論です。

・画像生成AIは新たなアート? それとも著作権侵害? 最前線に迫る(NHK 国際ニュースナビ) https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/feature/2023/03/30/30498.html

しっかりと作者に許可をとっている企業もありますが、これだけ画像生成 AI が話題になっていると新たな企業がどんどん参入するでしょう。
その中には著作権侵害をしている企業があるかもしれません。 大切な広告にクレームがついたら困りますから、ちゃんと見極めて使う事が大切ですね。

新しい技術や新しい商品はこれからもどんどん出てくるでしょう。 広告動画の撮影・作成に便利なものも多く出てくると思います。 今後はそういったものについてもこちらでご紹介できればと思っています。