この広告に注目!VOL.11
不動産ポエムの、その後。

コピーライター KEN
2023.07.04

不動産らしいコピーづくりも、必要なノウハウ。

コピーライターに成りたての頃、この仕事でメシを食っていきたいのなら、流通と不動産ができないとダメだからね、とよく言われました。流通とは百貨店のこと。私が暮らす愛知には、4M、つまり松坂屋、三越、名鉄百貨店、丸栄という4つの老舗百貨店があり、どれか一つでも担当すれば十分に暮らしていける仕事量が確保できました。百貨店の衰退が叫ばれて久しい今、まさに隔世の感です。もう一つの食いっぷちと言われた不動産とは、マンションや戸建住宅の分譲広告のこと。まだネットというものが存在していなかった頃、マンション一つを担当すると、パンフレット、間取りプランを載せた図面集、価格表、さらには折込チラシやDMという多くの広告ツールを制作する必要がありました。しかも、売り行きが芳しくないと、何度もチラシやDMをつくって告知を続ける、というおまけも付いてきたのです。ノウハウさえ覚えると、ある程度の金額が見込める理由がここにあります。

身に付けるべきノウハウって?例えば、図面が読めること。この間取りにはどんな特徴があり、住む人にとってこんなメリットがある、ということを言葉にする必要があります。また、地図を読めることも大事。周辺にはどんな施設があり、学校やスーパー、駅まで行くには何分かかるのか。休日はどんな過ごし方が出来るエリアか、なども伝えるべき情報です。これらは、何度もやっているうちに覚えるから大丈夫。最も苦労したのが、「不動産らしいコピー」の書き方でした。

伝わるスピードが求められると、
コピーも変わる。

不動産ポエムという言葉を聞いたことがありますか。わかりやすく言えば、素直に書いたら非常にシンプルな表現になるコピーを、独特の単語や言い回しによってキラキラ、ゴージャスに装飾すること。例えば、「美しい外観も、このマンションに住む喜びになります。」が、「優美を纏い、誇りを極める。」に。「都心ながら静かで、とても住みやすい地です。」は、「静穏な住環境が護られた、奇跡の地。」という具合です。なぜこうなるのでしょう。それは、住まいは高額→普通の言葉や言い回しでは、価格相応じゃない→お客さまもそう思っているはず、という図式をみんな信じているからです。面白いことに、高額の物件になるほど、言葉の化粧は厚みを増していき、やたら画数の多い漢字が並ぶことになります。

これが不動産ポエムの正体。ただ、最近は少し様相が変わってきました。普通の言葉でコミュニケーションすることが当たり前になったのです。変化した理由は、広告の主体が印刷媒体ではなくネットに移ったから。前提として、ポスターやパンフレット、新聞15段という大きなスペースの広告で使うコピーとHPで使うコピーは異なります。画期的な機能を備えたシステムキッチンを紹介するために、使う人の生活シーン、ライフスタイル、価値観などに相応しいということをしっかり伝え、その理由はこんな機能を備えたキッチンだから、と落とす。これが新聞15段のコピー構成だとすると、ネットの場合はまず機能を伝え、それによってもたらされるメリットを端的に紹介します。コミュニケシーョンにスピードがより求められるネットだからこそ、言いたいことを早く、分かりやすく伝える必要があるのです。不動産広告も同じ。「このキャッチフレーズって、どういう意味?」と思われるようでは、意味がありません。

これはこれで正しいと思います。しかし、昭和・平成と生きてきたコピーライターとしては、そうは言っても薄化粧くらいしてもいいのでは、と思いながら今日も不動産のコピーを書いています。さまざまなデベロッパーが、さまざまなマンションのサイトを立ち上げています。ぜひ一度のぞいてみてください。みんな試行錯誤しながらつくっているコピーが並んでいますよ。