この広告に注目!VOL.7
ACジャパンって、なんだ?
それは、広告を社会課題解決のために生かそうと考え、誕生した。
「たたくより、たたえ合おう。」そんなキャッチフレーズを掲げながら、高齢の女性と強面サングラスの若者が、ラップを歌うCMをご覧になったことがあると思います。最後に出てくるロゴは、お馴染みのACジャパン。高齢者を助けよう、という教科書的な伝え方ではなく、“やがて、みんなが通る道”として高齢者の行動リズムを受け入れる様子が共感を集め、既にいくつもの広告賞を受賞しています。
このCM以外にも、いろいろな社会課題を取り上げ、いろいろな表現や切り口で気付きを促したり、解決策を伝えたり、疑問を投げかけたりするCMを1日に何度となく目にします。それらの最後には、必ずこのロゴが。いったい、ACジャパンとは何なのでしょうか。
発足したのは1971年。高度成長期を通り過ぎた日本は、公害問題、多発する交通事故など、解決しなくてはいけない課題が山積みでした。そのために広告がチカラになれないかと考え、生まれたのがACジャパンの前身となる関西公共広告機構でした。関西?そう、実は大阪生まれの組織なのです。
提唱者は、当時のサントリーの社長であった佐治敬三氏。多くの企業がお金を出し合い、社会課題の解決に向けた意識を高めるなど、有益なメッセージを広告で発信していこうと考えたのです。集まった企業は114社。さすが佐治さんというところですね。その後、1974年には社団法人公共広告機構、2009年には社団法人ACジャパン、2011年には公益社団法人となって現在に至っています。
冒頭のラップCMをはじめとするACジャパンの広告作品は、誰によってつくられ、どのようにして私たちの目に触れるのでしょうか。有名なタレントが出ているわけではない。でも、多彩なアイデアで記憶に残る。そんなCMが多いのは、数多くの広告会社の、これまた数多くのクリエーターがそれそれぞれアイデアを出し、渾身の一本を企画するから。それらを審査して、実際に制作し、オンエアする作品を選出するというコンペ形式をとっています。
毎年テーマが与えられる全国キャンペーンと日本を7つのエリアに分けた地域キャンペーンなどいくつものカテゴリーがあります。ラップCMは全国キャンペーンの「不寛容な時代~現代社会の公共マナーとは」というテーマを形にしたものです。
※本文で紹介しているACジャパンのCMは、こちらでご覧いただけます。
https://www.ad-c.or.jp/campaign/self_all/self_all_01.html
ACジャパンのCMから、広告の作り方を考える。
広告とは、人を動かすためにあります。物を買ったり、旅行に行ったり、新しい学びを始めたりするための情報を届け、動くきっかけをつくるのが広告の役割、と考えています。私が広告をつくるとき、つまり人を動かそうとするときに最低限心がけているのが、「みんなが知っていることは、そのまま言わない」ということ。特に「感染症」「防災」「環境」「多様性」など、ACジャパンが毎年掲げるキャンペーンテーマに沿って人の心を動かそうとすると、それぞれの大切さ、実現の難しさはみんな知っているので、自ずとどんな切り口で、どんな手法でその大切さを伝えるかという戦いになります。
考えられる方法は2つ。何かに例える、というのが1つです。海洋プラスチックごみ問題は、プラ島太郎の物語に、食品ロス問題は、おむすびころりんをモチーフにして、というように童話とメッセージを結び付けたACジャパンのCMはその代表例です。東日本大震災の直後に何度も放送されて話題になった、金子みすゞの詩でコミュニケーションの大切さを訴えたCMも、その例です。
もう1つは、徹底的に事実を調べ、まだ気付いていない事実、気付いていない課題を見つけて伝えること。時間や情報収集力や分析力などが必要ですが、真摯に心打つ広告が生まれます。少し前になりますが、ペットの命をテーマに2016年に制作されたCMはこの手法を生かしたもの。ペットが殺処分される理由を調べ、「大きくなったから」「家族旅行に行けないから」「思ったより臭うから」などを紹介しています。事実だけに、気付くことも多いのではないでしょうか。
ACジャパンからは離れますが、この方法で非常に良いメッセージCMをつくっているのが東海テレビです。女性の生理を題材にした「生理を、ひめごとにしない。」、LGBTQをテーマにした「この性を生きる。」など、テレビ局ならではの取材力で、私たちが気付いていない事実を教えてくれます。
何かに例えるか、調べ上げて気付きを与えるか。社会課題に関するものだけでなく、商品広告などにもこの2つの手法が使われているので、気を付けて見てみてください。自分が広告制作する際の、参考になるはずです。