この広告に注目!VOL.6企業広告と言えば、新聞だった時代から。

コピーライター KEN
2023.01.17

企業広告の主戦場は、今どこに?

1月1日、4月1日、10月1日、これらはいったい何の日でしょうか。最初はもちろん元旦。2番目は新年度が始まる日。3番目は多くの企業の下期がスタートする日。企業にとっては大切な節目にあたるため、新聞をめくると理念やこれからへの決意などを伝える企業広告が、15段、30段という大きなスペースを使って掲載されていました。特に元旦の新聞に掲載する広告は制作者たちも力が入り、最近でも西武・そごうの「さ、ひっくり返そう。」をはじめ、いくつもの名作が生まれてきました。 と、ここまでを全て過去形で書いてみました。なぜなら、企業広告の主戦場はすっかりネット、もっと絞ればサイト内の動画に移ってしまったからです。その第一の理由が、新聞の読者が減少し、広告を掲載する媒体としての価値が低下したから。第二が、企業が伝えるメッセージが多様化、多重化、多面化……つまり、1本のキャチフレーズと300字くらいのボディコピーだけでは伝えきれない。しっかり書いても文字は読まれない、という背景が挙げられます。

社会課題への取組を、分かりやすく動画で伝える。

2022年の夏頃、広告専門誌に二つの企業メッセージを伝える動画が紹介されていました。その一つが三菱鉛筆のもの。筆記具メーカーから、⼈それぞれの個性を表現する喜びを届ける「表現⾰新カンパニー」に⽣まれ変わるという代表者の言葉通り、新たに設定された企業ビジョン(ありたい姿)は「世界一の表現革新カンパニー」、そして企業理念は「違いが、美しい」となっています。

この理念の解説の中には、次のような言葉があります。「性別、文化、障がい、人が生まれ持ったさまざまな違いを可能性に変え、豊かな表現や新しいつながりを生み出していきたいと思う。そして、それぞれの違いを、あたりまえに個性として表現し、だれもが自由に笑いあえる未来に貢献しようと思う」。

数年前から日本でもSDGsをはじめとする社会課題への取組が注目され、特に企業が果たす役割がその企業の評価につながるようになりました。そのため、ビジョンや理念では自社のこれからを言うだけでなく、自らの活動で社会に何ができるかを伝えるように変化しています。三菱鉛筆の場合は、さまざまな違いを、さまざまな可能性を秘めた個性と捉え、豊かな表現やつながりを引き出すこと、です。

これを新聞広告でしっかりと、誰もが分かるように言おうとすると、とても堅くて注目されにくい広告になりそう。こうした課題をクリアしてくれるのが、動画のエンターテイメントの力です。なにより見て分かりやすい。サイトを通して見る私たちだけでなく、数多い社員の人たちもこれを見てワクワクしているのではないかと思います。

人に何ができるか、を動画でエモく伝える。

もう一つが、蔦屋書店や映画・音楽ソフトレンタルのTSUTAYA、Tポイント事業などを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)です。TAUTAYAの会員、Tポイントカードの会員の動向は、人々の文化的な行動を知る上では貴重なビッグデータ。それらを活用して、生活提案や商品開発、社会課題の解決へとつなげています。この事業を行っているCCCMKホールディングスがミッションに掲げているのが「UNIQUE DATA, SMALL HAPPY」。人それぞれに適したデータは、一人ひとりの日々の幸せにつながるという意味です。ひと昔前なら、「情報が集う環境づくり、情報が生きるインフラづくり」的な、自社の活動を主としたメッセージになりがちでしたが、ここでも人に地域に社会に何ができるかをしっかり訴えています。 これを端的に理解してもらうためにはどう伝えるか。サイトに掲載されているブランドムービーは、見事に課題をクリアしていると思います。さまざまなSMALL HAPPYをドラマで描き、日々の暮らしで感じる幸せは、一人ひとりに合わせたデータが基になって生まれている。そのことを「データはただの数字ではなく、誰かの幸せをつくり出すツール」という考えの下で、今風に言えばエモく描いています。

2次元の媒体で伝えようとしたら、何ページものパンフレットになる情報を、ぎゅっと凝縮した三菱鉛筆やCCCMKホールディングスの動画。それらを見ていると、頭で理解するというより、心を動かすためのものという存在価値が見えてきます。企業が目指すことに共感し、ファンになってもらうための動画を、いろいろな企業サイトに行って見てみてください。今、どんなことを考え、何をやろうとしているかが数分間で分かりますよ。