この広告に注目!VOL.4
その昔、中吊り広告というものがありまして。

コピーライター KEN
2022.11.15

電車の中で、人々は何をする?

中吊り広告って知っていますか。もしあなたが広告のプロだったら、何を聞くんだ?と思うかも知れません。でも、お気付きでしょうか。少し前ならJR、私鉄、地下鉄に乗ると嫌でも目に入った広告が、めっきり少なくなりました。いずれ、なくなるのではないかと思うほどです。

その理由に挙げられるのが、電車の中に広告を掲出する効果が薄れたこと。座席に座っている人、つり革につかまっている人、ドアに寄りかかっている人などを眺めると、8割以上が下を向き、視線はスマホの画面に。本や新聞の文字を追う人はちらほら。確かなのは、視線を上に向けて広告を見る人はいないということです。

人々をザワつかせた、黒い山手線。

もはや鉄道は、広告媒体としての価値を失ったか。そう思っていたら、こんな事例を見つけました。「黒い山手線」。NetflixとJR東日本がジョイントして実施した広告キャンペーンです。

JR東日本のプレスリリースを読むと、150年前に開業した当初の1号機関車をイメージした黒で山手線をラッピングし、鉄道150周年とNetflixのロゴをあしらったとか。明るいグリーンを効果的に使った山手線が行き来するホームに黒い車両が入ってくる。それだけで人々に与える強いインパクトが想像できます。

また、11両編成の各車両内では、1両ずつNetflixの人気番組の世界を楽しめるようにつくり込まれています。もちろん、中吊り広告も演出を担う大切な役割を果たしています。広告のコンセプトは「新しい世界に連れていく」。外観にも電車の中にも、これまでにない世界が広がっています。

ちなみにこの車両は、2022年10月1日より期間限定で運行。たった1編成という希少性も話題を集め、私のInstagramやFacebookにも、「黒い山手線見た」という投稿が上がっていました。この現象は、広告の波及効果があったという証拠です。

車内を切り絵美術館にした、「ムーンライト」の広告展開。

アイデアとインパクトがあれば、人々は振り向く。注視する。広告を企画し、制作していく上での基本中の基本の重要性は1編成全体を広告とするダイナミックな展開だけでなく、中吊り広告が教えてくれることもあります。森永製菓のビスケット「ムーンライト」の広告展開がその一例です。

満月が輝く夜空に登場した月の女神(北川景子さん)が、優雅にムーンライトを楽しむ。このイメージを伝えるために、Newsweekが選出する「世界が尊敬する日本人100人」にも選ばれている切り絵作家の蒼山日菜さんを起用し、切り絵がそのまま中吊り広告になっているという仕掛けです。蒼山さんがつくり出す“レース切り絵”とも言われるほど繊細で美しい作品が、車両の中にムーンライトの世界観をつくり出しています。 モニターを見続けて、中吊り広告を見ない。実はその理由に、見たくなる広告がないというのも含まれているのかも知れません。中吊り広告に限らず、黒い山手線や切り絵広告のように、新しい企画を考え、形にすることが、これまで以上に私たち制作者に求められている気がします。