この広告に注目!VOL.3 困ったら、言葉で遊ぶという手がありますよ。

コピーライター KEN
2022.10.14

●タレントの力より、アイデアで勝負を。

このサービスで、この商品で、何を伝えたら人々は動くか。それは、広告を企画する上で最初に頭を悩ますポイントです。考えて考えて答えを見つけたら、次はそれをどう伝えるか。

売れているタレントさんが使えたら、確かに多くの人に届きますが、そんな予算は通常の場合ありません。広告で笑わせるか、泣かすか、びっくりさせるか、怒らすか。たくさんの人の記憶に残り、買ったり、出かけたり、利用したりしてもらえるようなきっかけをつくるために、クリエーターはアイデアを絞り出すという闘いを繰り返します。

●同じコピーでも、読む順番を変えたら違う印象に。

2022年夏の終わり、新宿駅に貼られた大型シート広告に、多くの人々が目を止めました。広告主はマッチングアプリ「Pairs」を運営する株式会社エウレカです。

これが、なぜ人々の注目を集めていたのか。その理由は、広告のアイデアにあります。

右に「おんなごころ」、左に「おとこごころ」というキャッチフレーズ。この2本にはさまれるように、23行のコピーがレイアウトされています。「おんなごごろ」を先頭に読み進めると、女性目線の出会い、「おとこごころ」から読むと、つまり同じ23行を反対から読み進めると男性目線の出会いが綴られているという仕掛けです。

ご覧の通り、この広告にはタレントさんや自然の美しい姿、花や子どもの笑顔などは登場せず、文字しか目に入りません。ただ、その文字で遊ぼうとクリエーターたちは考え、生み出したのが前述のアイデアです。この利点は、はまったら面白くて、記憶に残る。しかも、お金がかからない(もちろん企画費というアイデアの対価は必要ですが)。

コピーライターからすると、勘弁してよ、という思いつきですが、実は最近たびたび目にする仕掛けでもあります。

●センス良くコピーで遊ぶ、が記憶に残すルール。

言葉を使ったアイデアで話題になったのが、そごう・西武が2020年の正月に発表した広告。「さ、ひっくり返そう。」というキャッチフレーズとともにレイアウトされたコピーを上から読むと、土俵際に押し込まれ、絶体絶命の苦境に立つ人の気持ちが書かれています。しかし、ひっくり返して、つまり同じコピーを下から上へ読み進めると、大逆転は起こり得るとポジティブに捉える人の言葉に変わるという仕掛けです。これもコピーの遊びを最大限に生かした例です。苦境に立っていた企業自らが、立ち直る!という意思表明をこんな形でするなんて、とてもオシャレじゃないですか。

日本には古くから、上から読んでも下から読んでも同じ言葉になる言葉遊び、「回分」があります。「イカ食べたかい」は聞いたことがありますね。まだトライしたことはありませんが、これでキャッチフレーズをつくってみる、というのもありです。アイデアに詰まったら、コピーライターの一芸に頼ってみてはどうでしょう。

最後にご注意。いくら言葉遊びと言っても、ダジャレとお洒落の違いをよく理解しておくこと。「でっかいどお。北海道」「女は、ナヤンデルタール。男は、ネタンデルタール。」「幸服を買う。」これらは真木準という名コピーライターの作品ですが、親父ギャグとは明らかに一線を画していること、お分かりですね。