この広告に注目!VOL.2 かっこ悪い広告は、お嫌いですか?

コピーライター KEN
2022.09.12

●かつて、広告は「引き算の美学」がモノサシに。

広告には引き算の美学というものがあります。15秒のCMでは余計なことは言わず、ワンメッセージだけをナレーションにする。15段の新聞広告で企業メッセージを伝える場合は、理念やビジョン、いまならSDGsの取組、さらには製品のことなど、あれもこれも言いたい気持ちはぐっと抑え、全てを集約した言葉とビジュアルでシンブルに伝える。そのために、コピーライター、デザイナー、フォトグラファー、イラストレーターなど、関わる人々は全力で技巧を凝らし、懸命にかっこいい広告をつくろうと汗を流します。20年程前までは。

●国語辞典を、どう広告したらいいのか。

ここでご紹介するのは、2021年度朝日広告賞で読者賞と一般公募の部で準朝日広告賞を受賞した作品。広辞苑の魅力を伝える2本の新聞広告です。なぜこれが評価を受けたのか。

その最も大きな要因は、今の社会での広辞苑のポジションと、その環境の中でやるべき販売促進戦略の明確さではないでしょうか。

まず、広告を企画する上で考えなくてはいけないのが、国語辞典を本屋で買おう、という人が決して多くないという事実。ましてや約3,200ページ、1万円弱の広辞苑となると、言葉を職業にしている人しか手にしません。そうした中で行うべきことは、新たな購入者の開拓です。 ただし、間違えてはいけないのが、「だったら若者に広辞苑を買ってもらう戦略はどうか」という短絡的な発想を基に進むことです。印刷された文字は読まない。言葉の意味は、仲間同士で通じればOK。そうした世代が、分厚い国語辞典を買うわけがありません。大切なのは、広辞苑が持つ伝統、正統というイメージは残しながら、新しい目線、新しい感覚に裏打ちされた「尖った感覚」を備えている事実を伝えること。その姿勢に共感し、「広辞苑、いいじゃないか」と感じる人が、新たな購入者予備軍です。

●いま、「外しの美学」が、かっこいい。

この広告が評価された理由の2つめは、ご覧の通りの表現方法です。かつて、お馴染みの猫のキャラクターに寄せられた「かわいい」という言葉が、このケーキかわいい!この仏像、チョーかわいい!など、見た目のことだけでなく、おいしい!渋い!などさまざまな意味を持つようになりました。その現代版が、ヤバい、エモい。それぞれが持つ意味をたどり、続きは広辞苑で、とメッセージしています(コピーがないので、想像ですが)。日本語って難しい。でも日本語って、面白い。少し、言葉の世界を楽しんでみませんか。これを言って「そうかもな」と思ってもらえるのは、膨大な情報量と歴史に裏付けられた自信が漂う広辞苑ならではだと思います。

また、かっこよく仕上げなかったのも、勝利の一因。今風なことを、かっこよく、どうだ!とばかりに言われても、イケオジがダジャレを言うのと同じように引いてしまいます。「らしくない、外しの美学」が、他の広告との差別化という視点からも非常に効果的です。

「かっこわるい」が「かっこいい」。広告する商品、企業によっては、使える発想、技法だと思いますよ。